13時20分15秒 [税金・経済]
インボイス制度で誰の収入がどう減るのかの話
インボイス制度によって誰の収益がどう減るのか
先月に、インボイス制度の問題に関連して『益税ではなく「消費税は取っていないのよ」という話』というブログ記事を書きました。
その後、「取引のある2者間での消費税の扱い」がインボイス制度によってどう変化するのかについて、(自分自身の理解を確認することも兼ねて)ちょいと説明をしてみましたところ、分かりやすいという評価を頂きましたので、ついでにブログにも掲載しておきます。(ただ、私は専門家ではないので、説明が本当に正しいかどうかの確証はないんですが。^^; 今の時点では私はこう理解している、というだけの話です。)
以下の説明での登場人物は2人だけです。
- 砂倉さん: お客さんから受注して、その一部作業を私に発注して下さるフリーランス(個人事業主)。
- 私 : 砂倉さんからの依頼を受けて作業をするフリーランス(個人事業主)。
以下の説明では、砂倉さんと私が共にフリーランス(個人事業主)であり、「砂倉さんが受注した案件を、私が手伝っているケース」を例にして説明しています。
免税事業者という概念が存在しない場合に、消費税の納税形態がどうなるかの話
まず、免税事業者という概念が存在しない場合のことを例にします。
そうすると、個人事業主であるところの砂倉さんも私も、課税事業者として共に毎年3月には消費税を納める義務が発生します。
例えば、
- 砂倉さんがお客さんから税抜20万円(税込22万円)でWeb製作を受注し、
- 砂倉さんが私へ税抜10万円(税込11万円)でその実装を依頼したとします。
仮に、1年間の仕事が上記1件だけだった場合(^_^;)は、翌年3月に収める消費税は以下のようになります。
- 私は、砂倉さんから受け取った11万円のうちの消費税分である1万円を納税します。
- 砂倉さんは、お客さんから受け取った22万円のうちの消費税分である2万円を納税……するわけではありません。
消費税は二重課税を防ぐために、「自分が受け取った消費税額」から「自分が払った消費税額」を引いた差額だけを納税すれば良いことになっています。
つまり、砂倉さんは、
- Ⓐ お客さんから受け取った消費税額2万円
- Ⓑ 私へ払った消費税額1万円
上記のⒶからⒷを引いた差額である1万円だけを納税すれば良いことになります。
すると、
- ⓐ 私が納税する消費税 1万円
- ⓑ 砂倉さんが納税する消費税 1万円
で、合計2万円が国に入るわけですね。(※消費税は国だけに入るわけではなくて、国と地方とそれぞれに分散して入る制度だったと思いますが、そこは本題ではないのでここではざっくりまとめて「国」と言っておきます。)
この『合計2万円』は『最初にお客さんがWeb製作料として支払った消費税額2万円』とイコールということになります。
消費税とは「消費した人」が払っているわけですね。消費した人が直接納税するわけではなくても。
以上が、消費税の納税の話です。
実際には消費税を納税していないのだけど、それは免税事業者だから
しかし、私は消費税を納税していませんし、砂倉さんもしていません。
それは我々が「免税事業者」だからです。
免税事業者というのは、消費税の納税を免除されている事業者のことで、条件は「前年の利益が1000万円に満たない」ことです。
つまり、「年間の利益が1000万円未満なほど儲かっていない零細事業者なら、消費税は納めなくてよろしい」という制度ですね。
この免税制度があるので、我々フリーランスは、消費税の存在を気にすることなく、「自分の納得できる受注額」=「税込額」として提示できるわけです。
もしこの制度がなかったとしたら、「自分の納得できる受注額」はあくまでも税抜額として、それに消費税率(10%)を加えた額を税込額として提示しなければならなくなります。(消費税分は国に納めなければならないわけですから。)
※その辺の話は、先月のブログ記事『益税ではなく「消費税は取っていないのよ」という話』で書きました。
片方が課税事業者で、もう片方が免税事業者のとき:現在の場合
ここで仮に、砂倉さんは非常に儲かっていて、課税事業者として毎年消費税を納税していたとしましょう。
私は免税事業者です。
すると、消費税の納税は次のようになります。
- 私は、砂倉さんから受け取った11万円(内1万円は消費税)をそのまま全額もらいます。(※注:クドいようですが、これが益税などではないという点は先月に説明しました。)
- 砂倉さんは、お客さんから受け取った22万円のうちの消費税分である2万円から、私へ払った消費税分である1万円を引いた差額である1万円を納税します。
すると、国に消費税として入るのは合計1万円だけですね。
私は免税事業者なので消費税の納税が免除されているため納税しないのですが、
だからといって、『砂倉さんが私へ消費税1万円を払った』ことに違いはないのですから、砂倉さんが納税する消費税は(2万円から1万円を引いた残りの)1万円だけで良いのです。
これが現状の制度です。
ところが、インボイス制度が始まると、上記のようにはいかなくなります……。
片方が課税事業者で、もう片方が免税事業者のとき:インボイス制度下の場合
上記の説明で、砂倉さんが消費税として2万円ではなく1万円だけを納税すれば良い理由として、「『砂倉さんが私へ消費税1万円を払った』ことに違いはないのですから」と述べました。
『砂倉さんが私へ消費税1万円を払った』という点は、請求書なり金額を提示した文書があれば分かります。「税込11万円で引き受けた」というような文面と、実際に11万円を支払った明細なりがあれば、それで「消費税1万円を支払った」ということは分かるでしょう。
しかし、インボイス制度が始まると、そのようなテキトーな書面等ではダメで、消費税額が明記された「インボイス(適格請求書)」という書類が必要になります。
この書類がある場合とない場合とでは、次のように納税額が変化してしまいます。
▼パターン➊:私が砂倉さんへインボイスを発行した場合:
この場合は従来通りです。
砂倉さんは、
- Ⓐ お客さんから受け取った消費税額2万円
- Ⓑ 私へ払った消費税額1万円
上記のⒶからⒷを引いた差額である1万円だけを納税すれば良いことになります。
▼パターン➋:私が砂倉さんへインボイスを発行しない場合:
この場合は、砂倉さんが困ったことになります。
なぜなら、
- Ⓐ お客さんから受け取った消費税額2万円
- Ⓑ 私へ払った消費税額1万円
……のうち、Ⓑを証明する書類(インボイス)が存在しないので、Ⓑの額を差し引けなくなります。
その結果、砂倉さんにはⒶの丸々全額を納税する義務が発生します。つまり、2万円を納税する必要があるわけです。
そうなると、当然、砂倉さんは私に「インボイスを発行してくれ」と言いたくなりますよね。
インボイスを発行してもらいさえすれば、消費税の納税額は従来通りで済むのですから。(ここでの例で言えば、2万円ではなく1万円の納税で済むわけです。)
ところが、インボイスという書類は、誰でも発行できるわけではありません。
課税事業者でないと発行できないのです。
※正確には、消費税の課税事業者になった上で、適格請求書発行事業者の登録を受けないと発行できないのですが。
前提として「課税事業者にならないといけない」という条件があります。免税事業者のままでは適格請求書発行事業者として登録することはできない制度ですから。
インボイス後の選択肢
さて、そうすると、インボイス制度が始まった後に免税事業者である私が取り得る選択肢としては次の2つがあります。
- ㋐ 免税事業者のままで居る。(=インボイスは発行できないが、消費税の納税は免除される)
- ㋑ 課税事業者になる。(=インボイスを発行できるようになるが、消費税の納税義務が発生する)
私としては、㋐の方が望ましいですよね。納税の義務がないままなら、収益を減らさずに済みますからね。納税の手間も省けますし。
しかし、砂倉さん(※注:年間利益が1000万円を超えている、儲かっている場合の例)としては、私に㋑になって欲しいですよね。インボイスがもらえないと、消費税の納税額が増えてしまうのですから。
したがって、実際には私が取り得る選択肢は、次の4つになります。
- ① 免税事業者のままで居る。
:受注額11万円を受け取りつつも、消費税(1万円)の納税は砂倉さんに負担してもらう。 - ② 免税事業者のままで居る+値引きに応じる
:砂倉さんの納税額が1万円増えてしまうのを相殺すべく1万円の値引きに応じて、11万円ではなく10万円で受注する。 - ③ 課税事業者になる。
:受注額11万円のうち消費税1万円は納税する。(つまり収益は1万円減る) - ④ 課税事業者になる+値上げを要求
:受注額を11万円ではなく12.1万円にしてもらう。(消費税を納税しても収益は11万円のまま確保できる。)
上記の4パターンのうち、
- ①と④は『私の収入は減らないが、砂倉さんの収入が減る』パターンです。
- ②と③は『私の収入は減るが、砂倉さんの収入は減らない』パターンです。
どちらかの収入は必ず減るわけですね。
要するに「受注側か発注側のどちらかの負担が必ず増える」が、どちらにせよ「国家は税収が増える」制度
要するにインボイス制度とは、私か砂倉さんのどちらかの収入を必ず減らすわけですが、どちらにせよ国家は税収が増える制度なんですよね……!(ひどい)
▼問題は、企業(課税事業者)が発注してフリーランスが受注する場合
以上は、話を分かりやすくするために「私」と「砂倉さん」という2者間(個人間)の場合を例にしました。が、実際に問題になるのは「受注側のフリーランス」と「発注側の企業」との関係の場合でしょう。(免税事業者同士の取引の場合には、どちらも消費税を納税しないのですからインボイスを発行する必要はありませんので。)
「発注側の企業」にとって、発注先候補に挙がるフリーランスは複数居る、というケースもあるでしょう。
そうなると、『インボイスを発行してくれる人』と『インボイスを発行してくれない人』が居たとき、それらの見積額が同じなら、どちらに発注するか……? というと、考えるまでもないですよね。
仕事を失いたくないフリーランスとしては、先の①や④を選べるわけがないので、②か③になるでしょう。
すると、(10%値引きするか、10%を納税するかの違いはありますが、どちらにしても)10%の収益減少を受け入れざるを得なくなるわけですね。
もちろん、従来からずっと取引がある場合には、フリーランス側が丸々負担を被るとは限りませんけども。それでも例えば双方で折半できる話になったとしても、5%は減るわけですよね。
▼個人や免税事業者が発注側の場合はインボイスは不要
……とはいえ、私は課税事業者にはならずに、免税事業者のままで居る予定です。
個人や免税事業者(フリーランスや小規模企業)からの依頼もそれなりにある場合には、免税事業者のままで居る方がトータルでは収益を減らさずに済む、と思いますので。
もちろん、課税事業者との取引では、値引きを受け入れざるを得ないケースもあると思いますが。
個人や免税事業者なら(元々消費税を納税しないために)そもそもインボイスは不要なので、それらの人々にインボイスを発行する必要はありません。
その場合、もし課税事業者になってしまうと、それらの方々(=インボイスを必要としない方々)からの収入に対しても消費税分の納税義務が発生してしまうので、無駄に収入が減ります。
なので、個人や免税事業者との取引もある場合には、課税事業者になるのはあまり望ましくないのではないかな……と解釈しています。(まあ、絶対的な額の差次第ですけども。あと単純に、消費税納税の手続き負担も増えますしね。)
……というわけで、私は今のところは上記のように理解している、という話でした。